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岡崎 進(教授) 分子研リポート2006 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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研究系及び研究施設の現状 175

3-8 計算分子科学研究系

計算分子科学第一研究部門

岡 崎   進(教授) (2001 年 10 月 1 日着任)

A -1) 専門領域:計算化学、理論化学、計算機シミュレーション

A -2) 研究課題:

a) 溶液中における溶質分子振動量子動力学の計算機シミュレーション b) 溶液中におけるプロトン移動の量子動力学

c) 量子液体とその中での溶媒和に関する理論的研究 d) 水溶液中における両親媒性溶質分子の自己集合体生成 e) 超臨界流体の構造と動力学

A -3) 研究活動の概略と主な成果

a) 分子振動ポピュレーション緩和や振動状態間デコヒーレンスなど,溶液中における溶質の量子動力学を取り扱うこ とのできる計算機シミュレーション手法の開発を進めている。これまですでに,調和振動子浴近似に従った経路積 分影響汎関数理論に基づいた方法論や,注目している溶質の量子系に対しては時間依存のシュレディンガー方程式 を解きながらも溶媒の自由度に対しては古典的なニュートンの運動方程式を仮定する量子-古典混合系近似に従っ た方法論を展開してきているが,これらにより,溶液中における量子系の非断熱な時間発展を一定の近似の下で解 析することが可能となった。今年度は特に,溶質の状態間のデコヒーレンスが溶媒の運動により生じる過程を直接 解析し得る方法論を確立すべく様々な定式化を行い,数値計算を実施した。

b) 量子-古典混合系近似に基づいて,水溶液中における分子内プロトン移動の量子動力学シミュレーションによる検 討を進めている。状態間デコヒーレンスの速い系を有効に記述し得るサーフィスホッピングの枠組みの中で,シミュ レーションに用いられる運動方程式に関して,前年の透熱表示に引き続き,今年度は断熱表示による書き下し等方 法論の確立に努めた。モデル系に対する予備的な計算では,振動励起に端を発する熱的な活性化過程を経るプロ セスと,トンネリングによるプロセスとが系の条件に応じて自然に生じるシミュレーションを実現している。これ により,プロトンの移動と溶媒分子の運動との相関など,移動機構についての動的解析が可能となる。

c) 常流動ヘリウムや超流動ヘリウムなど量子液体の構造と動力学,そしてこれら量子液体中に溶質を導入した際の溶 媒和構造や動力学について,方法論の開発を含めて研究を進めてきている。前者については交換を考慮しない経路 積分モンテカルロ法や積分方程式論,そして経路積分セントロイド分子動力学法などを用いて解析を進め,一方, 後者に対しては粒子の交換をあらわに考慮した上で,溶液系の静的な性質の研究に適した形での経路積分ハイブ リッドモンテカルロ法を提案しこれまでにすでに超流動を実現し,不純物を含む溶液系へと展開してきている。 d) ミセルや二重層膜に代表されるような水溶液中における両親媒性溶質分子の集団的な自発的構造形成に対するシ

ミュレーション手法を確立することを目的として,自由エネルギー計算を含めた大規模 M D 計算を行っている。こ れまでに,特に大規模な M D 計算を効率よく実行することを可能とするため,原子数にして百万個オーダーの計算 が可能な高並列汎用 M D 計算プログラムの開発を行ってきた。今年度は特に,両親媒性分子が水溶液中に生成す

(2)

176 研究系及び研究施設の現状

る球状ミセルに対して熱力学的積分法に基づいたシミュレーションを行い,得られた自由エネルギーより構造安定 性のミセルサイズ依存性の検討を行った。また,これらミセルの形成過程そのもののダイナミックスの実行も開始 した。

B -1) 学術論文

T. NAKASHIMA, K. IWAHASHI and S. OKAZAKI, “A Molecular Dynamics Study of Sodium Chenodeoxycholate in an

Aqueous Solution,” Chem. Phys. Lett. 420, 489–492 (2006).

A. YAMADA and S. OKAZAKI, “A Surface Hopping Method for Chemical Reaction Dynamics in Solution Described by

Diabatic Representation: An Analysis of Tunneling and Thermal Activation,” J. Chem. Phys. 124, 094110 (11 pages) (2006). N. YOSHII, K. IWAHASHI and S. OKAZAKI, “A Molecular Dynamics Study of Free Energy of Micelle Formation for SDS

in Water and Its Size Distribution,” J. Chem. Phys. 124, 184901 (6 pages) (2006).

N. YOSHII and S. OKAZAKI, “A Molecular Dynamics Study of Structural Stability of Spherical SDS Micelle as a Function

of Its Size,” Chem. Phys. Lett. 425, 58–61 (2006).

N. YOSHII and S. OKAZAKI, “A Molecular Dynamics Study of Surface Structure of Spherical SDS Micelles,” Chem. Phys. Lett. 426, 66–70 (2006).

B -4) 招待講演

岡崎 進 , 「熱力学的積分法によるミセル生成の自由エネルギー計算とサイズ分布」, 日本物理学会61回年次大会 , シンポジウ ム「分子シミュレーションと熱力学量」, 松山 , 2006年 3月.

岡崎 進 , 「溶液中の分子振動量子動力学の計算機シミュレーション」, 分子構造総合討論会 , 静岡 , 2006年 9月.

N. YOSHII and S. OKAZAKI, “Molecular dynamics study of free energy of micelle formation in water,” 4th International Symposium of Molecular Thermodynamics and Molecular Simulation, Chiba, May 2006.

S. OKAZAKI, “A quantum molecular dynamics study of energy relaxation and decoherence of solute vibration in solution,” 20th International Conference on Raman Spectroscopy, Yokohama, August 2006.

B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

分子シミュレーション研究会幹事 (1998- ). 理論化学研究会世話人会委員 (2002- ). 溶液化学研究会運営委員 (2004- ). 学会の組織委員

FOMMS2006, organizing committee, Blaine (2006).

THERMO INTERNATIONAL 2006, organizing committee, Boulder (2006).

文部科学省、学術振興会等の役員等 日本学術振興会第 139 委員会委員 (2000- ).

総合科学技術会議分野別推進戦略(情報通信分野)W G 委員 (2005- ).

(3)

研究系及び研究施設の現状 177 学会誌編集委員

分子シミュレーション研究会「アンサンブル」, 編集委員長 (2004- ).

B -8) 他大学での講義、客員 国立情報学研究所 , 客員教授 .

C ) 研究活動の課題と展望

溶液のような多自由度系において,量子化された系の動力学を計算機シミュレーションの手法に基づいて解析していくために は,少なくとも現時点においては何らかの形で新たな方法論の開発が要求される。これまでに振動緩和や量子液体について の研究を進めてきたが,これらに対しては,方法論の確立へ向けて一層の努力を続けるとともに,すでに確立してきた手法の 精度レベルで解析可能な現象や物質系に対して具体的に計算を広げていくことも重要であると考えている。また,電子状態 緩和や電子移動反応への展開も興味深い。

一方で,超臨界流体や生体系のように,古典系ではあるが複雑であり,また巨大で時定数の長い系に対しては計算の高速化 が重要となる。これには,方法論そのものの提案として実現していく美しい方向に加えて,グリッドコンピューティングなど計 算アルゴリズムの改良やさらには現実の計算機資源に対する利用効率の高度化にいたるまで様々なレベルでのステップアッ プが求められる。このため,複雑な系に対する計算の実現へ向けた現実的で幅広い努力が必要であるとも考えている。

参照

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